第18回世界コンピュータ将棋選手権のエキシビション対局

激指の優勝で幕を閉じた第18回世界コンピュータ将棋選手権は、例年と同様、数多く報道されていますが、今回はエキシビション対局の勝利が大きなニュースとして広く伝えられていますね。

世界コンピュータ将棋選手権でのエキシビション対局は、5年前の第13回選手権から毎回行われており、今回は6度目にして初の2局開催となりました。最初の3回は勝又六段と優勝者との駒落ち対局、次の2回は加藤幸男さんと優勝者との平手戦でした。駒落ちは二枚落ち、飛落ち、角落ちとステップアップしながらすべて勝利しましたが、加藤さんには過去2回いずれも敗れ、今回が平手戦初勝利。とはいえ、加藤さん対棚瀬将棋、清水上徹さん対激指でいきなり2勝を挙げてしまったことには内外から戸惑いの声も多く聞かれます。何より、現場が相当な戸惑いの空気に支配されました。そこには、コンピュータが勝った、という達成感が立ちのぼる風景はありませんでした。

冷静に見れば、今回の結果は突然勃発した事件ではありません。たとえば2年前、週刊将棋の企画として行われたアマ強豪対コンピュータ将棋の団体戦ではコンピュータ側が大きく勝ち越し、その脅威を証明しています。あえて言えば、渡辺竜王vsボナンザ戦を含め、コンピュータが人間トップクラスの強豪に勝つチャンスがこれまでまったくなかったわけではありません。将棋はただでさえ番狂わせの多い競技であり、相当に実力差がある相手でも勝つ確率がゼロとは考えにくいのです(渡辺竜王vsボナンザ戦でいえば、ボナンザの勝つ確率が1/80程度はあったのではないか、と当ブログ主は考えています)。ただ、今回の勝利によって、コンピュータ将棋が、全国大会で勝ち続けているアマチュアトップにとってさえ警戒すべき実力を備えたことが証明された、とは言えるでしょう。

棚瀬将棋の棚瀬さん、激指の鶴岡さんがともに終局直後のコメントで触れたように、コンピュータ将棋の実力がアマチュアトップに届いたわけではない、というのが、コンピュータ将棋開発関係者間のほとんど一致した見解です。人間のエキスパートの技術には、コンピュータ将棋がまだまだ身につけていないものが多数あるのです。今回は、コンピュータ将棋にとってあまりにも有利な条件が揃いました。持時間の短さ、衆人環視の公開対局と、人間だけに大きなプレッシャーのかかる環境のさなか、加藤さんと清水上さんは、コンピュータの得意な展開をあえて避けずに戦い、そしてコンピュータは局面の展開に恵まれたのです。

棚瀬将棋に続く激指の勝利の直後の現地かずさアークの空気は、観戦者だけが味わう特権を得た、という以上の説明が難しいところです。幸い、選手権後の恒例のパーティにて、コンピュータ将棋側と加藤さん、清水上さんとが互いに健闘をたたえあい、真剣勝負の苦さを爽やかに噛みしめあう場面があったことは記しておきます。コンピュータ将棋開発関係者間でも、これでひとつの壁を越える儀式を終えた、という声はまったくなく、今後も両者の戦いが続かなければならない、と考えられています。その意味で、今回のことは、ひとつの勝負が終わった後のあたりまえの光景と何も変わりません。

今後、人間のエキスパートとの対局では、渡辺竜王vsボナンザ戦渡辺竜王が見せたように、コンピュータの弱点を人間がいかに突くか、ということが争点になるでしょう。相手によって作戦を変えることは、人間相手の戦いでも当然の戦略です。ましてコンピュータは、桁が大きく異なる読みの量、神の領域に近い詰みを読む技術など、人類とあまりに異なる条件が多数ありますから、その能力を発揮させない戦術は当然考えられるべきです。それは単純なものではないでしょうが、大きな方針としては、できる限り序盤戦を長引かせる、という構想が主軸になるでしょう。コンピュータ将棋が詰みの場面に近づけば近づくほど強くなることはわかっているので、コンピュータの苦手な部分でいかに差をつけるチャンスを増やすか。これは駒落ちの上手(うわて)の戦い方に似ています。その意味で、コンピュータ将棋は人間からみてまだまだ下手(したて)なのだ、というのが、コンピュータ将棋コミュニティの支配的な見方です。

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