コンピュータ5五将棋ブームの訳

すでにお伝えしているとおり、GPW-07では通常のコンピュータ将棋大会と同時にコンピュータ5五将棋大会コンピュータ9路盤囲碁大会が開催されていました。当ブログ主は当日、GPW杯コンピュータ将棋大会の作業にかかりきりで、5五将棋の様子も見てはいたものの対局の内容がほとんど見られませんでした。というわけであまり話題にしてこなかったのですが、GPW-07に続いて第1回UEC杯5五将棋大会(UEC55-2007)も開催され、ようやく棋譜も公開されはじめましたので、改めてご紹介いたします。

特筆すべきは、 GPW杯コンピュータ5五将棋大会の10チームに続いてUEC杯5五将棋大会COM部門にも14チームもの参加があったことです。14チームのうち6チームは世界コンピュータ将棋選手権でおなじみのチームの5五将棋バージョン。このため、5五将棋からコンピュータ将棋をスタートした参加者にとってはハードルの高い大会になったようです。通常の9九マスの将棋に比べて場合の数が非常に少ない5五将棋が、なぜこれほどコンピュータ将棋界の関心を集めたのか、いくつかの証言をもとに想像してみます。そこにはいくつか合理的な理由があり、プロゴルファーがパターゴルフ大会に大挙押しかけたかのようなイメージでとらえない方がよさそうです。

一番の理由は、やはりコンピュータ将棋開発者にとって5五将棋のプログラミングが 容易だったことにあるようです。通常の将棋プログラムを縮小的に修正するだけで作れてしまうので、人によっては下の図のような盤面を仮想的に作って使っているようです。

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  後手飛.PNG後手角.PNG後手銀.PNG後手金.PNG後手玉.PNG 
      後手歩.PNG 
        
  先手歩.PNG      
  先手玉.PNG先手金.PNG先手銀.PNG先手角.PNG先手飛.PNG 
   
          
  

これで、行き所のない駒の判定と 駒が成れる位置の設定を変更しさえすれば、通常の将棋プログラムの思考ルーチンをそのまま使えます。昔から使われている、番兵(sentinel)というプログラミングテクニックですね。

しかし、簡単に作れるという理由だけで通常の将棋プログラムの実績を誇る開発者の創作意欲を刺激するとは、考えにくいところです。やはりゲームとしての面白さが充分にあるということでしょう。K55でUEC杯に出場した柿木将棋の柿木さんによれば、5五将棋の終盤は意外に奥が深くて難解なようです。詰将棋を解く能力で人類をはるかに凌駕しているコンピュータが、狭い将棋盤で読み尽くせば、神のごとく強いのでは、とも思えてしまいますが、詰めろをかける、もしくはそれ以前の寄せの構図を描く、という技術は、特にコンピュータにとっては詰将棋に比べて桁違いに難しいのです。

コンピュータが詰将棋を解く能力は、人間のエキスパートにも絶対的に信頼されているほどのものを持っていますが、その理由はやはり、コンピュータが明確な結論の出る問題に強い、ということに尽きます。詰将棋でなく実戦の終盤では、たとえば詰めろの連続で迫る、という指し方が求められますが、このとき読みのすべての枝葉で詰みまで読み切るのは現在でも難しく、したがって将棋の終盤戦は結論が明確にならない難しい問題、ということになります。それは5五将棋でも同じ、と言える程度には5五将棋の終盤は難解なようです。しかし、通常の将棋に比べて探索空間がはるかに狭いことは確かで、その分コンピュータで読み切ることのできる終盤戦は出現しやすいといえるでしょう。言わば、頑張れば読み切れそうな終盤戦が5五将棋には数多くあるのかもしれません。そして、そのようなゲームを真剣に戦ったとき、また、その課題を克服したとき、将棋という競技の謎を解く新たな手がかりが得られるかもしれない、と多くのコンピュータ将棋開発者が期待したとしても、不自然ではありません。

…と、当ブログ主も期待して1回戦の棋譜を見ましたが…う~ん微妙? 簡単な詰みを見逃している場面もあったりして、コンピュータ本来の実力が発揮できていないようにも見えます。それだけ見た目以上に難しい、ということなのでしょうか。

このほかの動機として、大槻将棋の大槻さんは、55将棋は32bitで足りるので、本将棋よりはbitboardを使いやすいだろうと思い…と、GPW2007自戦記に書いています。並列化なしで1秒間に350万ノードを読むという速さは、やはり32ビットレジスタでビットボードの演算を行えることの有効性の証明でしょうか。ビットボードとは、主にコンピュータチェスで使われてきた独特のデータ構造のことで、ビットボードを将棋に採用したBonanzaの躍進がきっかけとなったのか、最近は全幅探索と同様にビットボードの導入がコンピュータ将棋開発者の間で流行しています。ビットボードについては、いずれ当ブログでも話題にしたいと思っていますが、それにしてもマニアックな動機ですね。

なお、人間部門KIDS部門については、残念ながら馴染みがないため割愛させていただきます。ただ、COM部門の順位表KIDS部門の優勝者の名が2つ並んでいるのが目を引きます。素直に考えれば、Nii_Moが探索型プログラム、KIDSがKIDS部門で優勝したプログラムなのではないかと思いますが、探索を行わないプログラムが五分の星を残したとすれば凄いですね。

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