これからコンピュータ将棋の開発にチャレンジする、という意気込みで本書を手にされた方は、目次どおりの順に読まれることをお奨めいたします。自ら開発するというほどではないが、コンピュータ将棋の強さの秘密には興味がある、という方は、初章に次いで最終章から第14章あたりまでを逆向きに読んでみられると、コンピュータ将棋に親しみがわいて技術的な内容も読みやすくなるかもしれません。本書のご購入は、表紙画像をクリックすると別冊数理科学バックナンバーのページに行けますのでそちらでご注文ください。
本書の章立ては、前史を含めたコンピュータ将棋の進化史の時系列におおむね沿っています。18世紀につくられたチェス・オートマトン(からくり人形)に始まり、コンピュータの誕生、コンピュータ将棋の黎明。次いで将棋盤のデータ構造、探索木、評価関数という基本的概念から、やがて探索順や深さを工夫し始め、証明数と反証数によって長手数の詰将棋を解くようになり…と詳細な解説に移る過程は、徐々に人間のレベルに近づくコンピュータ将棋の進化を再現しているようです。前半部分はソースコードや探索木の図が多数挿入されたプログラマ向けの解説になっていますので、実際にプログラムを書きながら読み進めていくと、よりスムーズに理解が深まることでしょう。
後半は詰将棋を解くだけでなく創り始め、優れた棋譜から学び、人間のエキスパートプレーヤーとの対局に本格的に取り組み…と、顔の見える頭脳に成長し人智との交流を徐々に深めるコンピュータ将棋。締めくくりではその実力を徹底分析しています。コンピュータ将棋協会の会長を12年間務めるなど、長年コンピュータ将棋の発展に関わった著者、小谷教授(東京農工大)による入魂のコンピュータ将棋評。96ページでは、トップクラスのコンピュータ将棋の個別のレーティングを、人間の5人のトッププロに加え、プロ上位2σ、プロ平均、プロ下位2σ、女流棋士、奨励会員、アマチュアトップ、アマチュアの各レーティングに交えて比較しています。これだけでも一読の価値あり、といういささか衝撃的な表になっています。なお、上位2σ、下位2σとは、受験生風に言うところの偏差値70以上、偏差値30以下に該当します。