本日高知城にて行われた将棋電王戦FINALの第2局、▲Selene – △永瀬拓矢六段の一戦は、89手目のSeleneの指し手が王手放置の反則、と裁定され、永瀬六段の勝ちとなりました。団体戦としては、プロ棋士チームの2勝0敗となっています。
本局は先手のSeleneが17手目まで角道を開けない居飛車で力戦型に誘導すると、後手の永瀬六段も居飛車で角交換の後に玉を固く囲う陣形を選択。Seleneが右玉に囲ったことで戦いのきっかけが生じにくい形となり、永瀬六段が公式戦で千日手の多い棋士であること、本局の前のインタビューでも千日手を辞さない意志表示をしていたことから、膠着状態のまま千日手となる予感が漂う展開となりました。
しかし48手目△7三桂に対して、これを目標にSeleneは▲2四歩から1歩を持駒にして▲7五歩と先攻し激しい戦いに。そして難解な終盤戦に突入。大盤解説場に表示されていたやねうら王の評価値は先手Seleneの優勢を示していたのですが…。
なんと、永瀬六段の88手目△2七同角不成を指したところでSeleneにトラブル発生。角不成を正常に処理できなかったらしく、自らの負けを宣言して対局を終えてしまいました。局後の記者会見によれば、Seleneが王手の△2七同角不成を放置して▲2二銀と指してしまい、将棋所の反則チェック機能によって負けとなったとのこと。その場で協議が行われ、王手放置により永瀬六段の反則勝ち、と裁定されました。
裁定の直後、永瀬六段がニコニコ生放送の番組に登場し、Seleneが角不成を正常に処理できないことを事前の対策で知っていたことを明かすとともに、△2七同角不成以降の対局が続いた場合の自らの勝ち手順を解説し、不具合が未修正でも修正済でも勝ち、と見越して△2七同角不成と指したことを明かしました。なお、飛、角、歩の不成は打歩詰が発生しうる稀な局面でのみ意味があり、この角不成は打歩詰とは関係ありませんでしたが、対コンピュータ将棋では不成によって相手の予測読みを外して余計に考慮時間を消費させる、などの効果が生じることがあります。
Seleneにとっては残念な結末となってしまいましたが、終盤は優勢と読んでいたようで、永瀬六段に読み負けていたのは確かのようです。△2七同角不成の後、▲同玉△1七香成▲2六玉△1四桂▲同と△同銀▲1五歩△同銀…以下の長手数の寄せを読み切ることがコンピュータ将棋にとって意外に難しいらしく、先週の斎藤慎太郎五段 – Apery戦に続き、コンピュータ将棋の弱点が明らかになった、と言えるのかもしれません。上記の詳しい手順や説明は、ニコニコ生放送の番組の終盤戦、および局後の解説などをご覧ください。
人間がコンピュータに抜かれる過程の最後、と見る向きも多かった将棋電王戦FINALですが、電王戦シリーズでは初めてプロ棋士チームの2勝、それに2戦で到達し、これまでとはまったく異なる展開となっています。コンピュータ将棋チームは残り3局がすべて負け越しへのカド番となり、気の早い巷間では「”FINAL” が撤回されるのでは」という期待の声も聞こえます。来週3月28日(土)の第3局、▲稲葉陽七段 – △やねうら王戦の舞台の函館・五稜郭が、団体戦の決戦の地となるかもしれません。