第3回将棋電王戦第3局が本日3月29日(土)に行われ、豊島将之七段が83手でYSSに完勝。シリーズではプロ棋士チームが待望の初勝利をあげました。
本局は豊島七段が横歩取りに誘導しYSSが誘導に応じる、という展開で戦型が決定した後、20手目△6二玉に対して豊島七段が強襲を仕掛けて早くも優位を築きました。戦いが始まった時点での豊島七段の消費時間はわずか3分未満で、YSSの指し方を予測した周到な準備が明らかでした。
第3回将棋電王戦の前2局は、プロ棋士側がコンピュータ将棋側よりも先に多くの時間を消費して中盤の難所に突入、そこでコンピュータ将棋が優位に立ち(形勢がもつれることはあっても)勝ち切る、という展開でしたが、本局はプロが決断よく指して時間と体力を温存し、かつ優位を順調に拡大、という人間にとって理想的な展開でした。終了時刻も前2局に比べてかなり早い17時前。将棋電王戦通算では第2回の阿部光瑠四段以来の勝ち星。プロ棋士を応援しながらも、どうしたらコンピュータに勝てるのかわからない、という途方に暮れる心境だった多くのファンも、かなり勇気づけられたのではないでしょうか。
20手目△6二玉と指す前の局面は定跡化されており、△4一玉や△5二玉が多く指される形です。それらを指していれば本局のように開始30手足らずで後手が劣勢になるようなことはなかったでしょう。したがって、YSSがそれらの定跡を搭載して定跡どおり指していればこの展開は避けられたと考えられます。ただし定跡どおりの指し手を増やした場合、相手の都合の良い定跡に誘導されやすくなるデメリットが生じることも多く、定跡の搭載はほどほどに、という開発方針がコンピュータ将棋では主流のようです。しかし定跡を知らないために悪手を指すリスクも当然あり、事前研究のしやすい第3回将棋電王戦ではそのリスクが大きくなると考えられます。コンピュータ将棋にとって、事前知識としての定跡をどの程度、どの部分で持っておくのが最善か、という課題が突きつけられた、と言えるかもしれません。あるいは、序盤でもっと深く読んで定跡に近い水準の手を確実に指せるようにすべきか、横歩取りのような激しい変化の多い形で特に深く読むよう調整すべきか、などを考えるべきかもしれません。
来週4月5日(土)の第4局は▲ツツカナ-△森下卓九段戦です。森下九段が勝てばプロ棋士とコンピュータ将棋の団体戦成績がタイとなって最終局を迎える一方、ツツカナが勝てば3年連続のコンピュータ将棋チームの勝ち越しとなる状況は変わりません。
通りすがり said
言わずもがなですが、最後から2行目の『YSSが勝てば』は、『ツツカナが勝てば』の誤植かと思いますが?