電竜戦さくらパイルール2023、参加者募集中

第3回世界将棋AI電竜戦は昨年12月に行われ、第1回マイナビニュース杯電竜戦統一ハードウェア戦は昨年末から今年2月にかけて行われました。そして今は第33回世界コンピュータ将棋選手権を来月に控えています。他方、これらとは別に、NPO法人AI電竜戦プロジェクトによる「電竜戦さくらパイルール2023対局会」の参加申し込みが始まっています。

パイルールとは、昨今のコンピュータ将棋のレベルアップによってこれまで以上に先手が有利であることがはっきりしてきた将棋というゲーム(プロ棋士同士の対局では昔から知られていましたが)のルールを少し調整し、先手と後手とを互角にする(「振り駒」という運の要素で有利・不利が発生しないようにする)ことを目的に考案された新たなルールです。これを「2人で1つのパイを公平にナイフで切って分け合う」ことになぞらえて説明します。ここではパイを「1人がナイフでパイを2つに切り、もう1人が2つのうちのどちらかを選ぶ」という昔から知られた方法で、2人が等しく満足するように分け合います。

パイ 2等分パイ 大小2分

パイを思い通りに切るのはなかなか大変ですが、素直に考えるなら、パイを切る方の1人は、上の絵において左側のように2つに分けたパイの面積ができるだけ等しくなるように努力するでしょう。2つのうちのどちらかを選ぶのはもう1人なので、もし右側のように明らかに片方を大きく、もう片方を小さく切ってしまったら、大きい方をもう1人に選ばれて損をしてしまうからです。

この2つに分けたパイの大きさの差を、何らかの将棋の局面における先手と後手との形勢の差に置き換え、2つに分けられたパイのうちどちらかを選ぶことを、将棋の局面を見て先手か後手どちらを持って対局をし勝利を目指すかを考えることに置き換えてみましょう。2人で将棋の対局を始めるにあたり、一方の対局者が何らかの局面を指定し、もう一方の対局者がその局面の先手か後手を選んで持ちます。この局面が、先手か後手どちらかが明らかに有利である場合、選ぶ権利のある対局者は当然有利な側を選択して対局を始めることにするでしょう。局面を指定する権利のある対局者はそれでは困るので、先後が互角の局面、もしくはどちらかが有利とは断定できないような局面を指定するでしょう。

パイルールは、「何らかの局面を指定する」ことを「先手を持って初手を指す」ことで行うルールです。平手の将棋では初手は30通りの中から選べますので、仮の先手を持った対局者が30通りの局面のうちの1つを指定し、仮の後手を持った対局者が先手か後手を選ぶ、ということが、対局の冒頭に行われ、その後は通常の将棋と同じように指し継がれます。ここで、仮の先手は▲2六歩、▲7六歩といった、先手の最善手かまたはそれに近い普通の手を選ぶ自由がありますが、その場合には恐らく仮の後手は先手を持つことを選択し、普通に先手が有利な将棋として対局を続けようとするでしょう。反対に、仮の先手は▲8六歩のような最悪と思われる手、またはそれに近い手を選ぶ自由がありますが、その場合には恐らく仮の後手は後手を持って2手目を指し、普通とは異なり後手が有利な将棋として対局を続けようとするでしょう。そこで仮の先手は不利にならないよう、最善手と最悪手の中間にある、ほどよく互角に近くなる初手を指して仮の後手に選択を委ねることになると思われます。これによって初手の段階で互角に近い局面を作り出すことで公平な対局を行おうとするのが、パイルールなのです。

このように「選択する」という行為を対局者に行わせることで互角のゲームを行おうとするルールはこれが初めてではなく、たとえば連珠(五目並べ)では「四珠交替打ち」「題数打ち」などの開局手続きの中で対局者に選択を行わせることで対局の互角化をはかるルール設計になっています。連珠の多くのルールでは冒頭5手程度が非常に複雑な手続きを経て打たれ、先手と後手が決まりますが、将棋のパイルールは自由な初手選択と手番選択、という簡潔な手続きのみで、以後は通常の将棋と変わらない戦いとなります。

この新しいルールを採用した「電竜戦さくらパイルール2023」で、果たして先手と後手の勝率は拮抗するでしょうか? 従来みられなかった初手が選ばれることで多様な戦法の世界が拡がるか、あるいは逆に画一的な序盤に収斂していくのか。よりよいルールを求めて連珠のようにルールが複雑化する世界に発展していくか…など興味は尽きません。「電竜戦さくらパイルール2023」の参加資格はいつもの電竜戦と同じく将棋AI以外にも人間のチームなどが認められています。4月21日(金)夜にネット対局で開催されます。新しいルールに挑戦したい、秘策をぶつけたい、という皆さんはぜひご参加ください。

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