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Ponanza無双、ハンディキャップ戦でも不敗

去る3月11日(土)、12日(日)の両日、第2期電王戦直前イベント「人類vs電王PONANZA ?だれでも所持金300万円?」が開催され、合計38名の挑戦者がPonanzaに挑んだ模様がニコニコ生放送で中継されました。結果は昨年の同イベントに続いて今年もPonanzaの全勝。これだけなら「またか」という感じですが、今年は昨年とは大きく異なることがありました。それは対局の大半が、大駒落ち相当のハンディキャップ戦であったことです。

こちらの画像お品書きが示す通り、賞金を減額する代わりにPonanzaが角を落とす、Ponanzaが飛を落とす、挑戦者の飛と角が最初から成っている、挑戦者の飛がいきなり成り込める形になっている、など、Ponanzaにハンディキャップを課した状態で挑戦することができました。このようなルールで行われることは挑戦者は初日のイベント開始前まで知らされていなかったらしく、また各ハンディキャップは挑戦者が選択できたものの数量制限があり、好きなハンディキャップを選び放題、というわけではなかったようですが、挑戦者はチャンスと思ったことでしょう。「両成」「龍王」はほとんど例のないルールなのでどの程度有利なのかはあまり明らかではありませんが、パソコンソフトの形勢判断などから、飛落と大きく異ならないハンディキャップとみられるようです。しかし、アマチュア大会全国優勝クラスの挑戦者が複数含まれていたにもかかわらず、Ponanzaはすべての挑戦を退けたのでした。

従来、コンピュータ将棋は駒落が苦手と言われてきました。コンピュータ将棋が学習の教師として使用する棋譜は大半が平手戦のもの。大駒落ちや「両成」「龍王」のルールで指された高品質の棋譜はほぼ皆無で、学習の機会はありません。そのためか、角落では挑戦者の四間飛車に対して居飛車穴熊、飛落では「御神酒(おみき)指し」と呼ばれる、ほとんどの上手が避ける角交換をあえて行う指し方を採用するなど、あまり得とは思えない作戦を多く選んでいました。にもかかわらず、Ponanzaはほとんどの対局で終盤までに不利を覆し逆に差をつけて勝っていました。従来の常識から考えれば、コンピュータの作戦に何らかの隙を見つけて確実に勝てる作戦を選ぶ挑戦者が1人くらいは現れそうなものでしたが、Ponanzaはその隙を見せませんでした。

今回のPonanzaの強さは、「融通が利かない」という従来のコンピュータのイメージを高水準で覆すものだった、と当ブログ主は考えます。コンピュータは、学習機会が乏しい状況でも柔軟な対応力を見せました。コンピュータ将棋は本格的に人工知能らしさを手に入れた、と言ってよい成果だったのではないか、と思います。

しかしいくらPonanzaが強いとはいえ、大駒落ちが小さくないハンディキャップであることも事実。ある程度以上の水準の指し回しを披露する挑戦者が現れていれば、高額賞金を手にする可能性は充分にあったはず。当ブログでは、それを承知で今回のルールに踏み切ったニコニコ動画に敬意を表したいと思います。この英断によって、またしてもコンピュータ将棋の進歩が示されました。

直前イベントで異次元の強さを見せたPonanza佐藤天彦名人と対局する第2期電王戦第1局は明日、日光東照宮で行われます。名人とコンピュータ将棋の初の公式戦は、ニコニコ生放送で完全生中継されます。

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電王戦は今春が最後、名人とコンピュータ将棋の頂上決戦

第2期電王戦

佐藤天彦叡王と電王Ponanzaとの間で戦われる第2期電王戦二番勝負の日程が、2月22日(水)に発表されました第1局は4月1日(土)に栃木県日光市の日光東照宮第2局は5月20日(土)に兵庫県姫路市の姫路城にて行われます。佐藤叡王は名人として今春に名人戦七番勝負を控えていますが、第1局の4月1日はまだ七番勝負が始まる前であり、したがって電王戦で初めてタイトルホルダーとコンピュータ将棋の対戦が少なくとも1局実現することが確定しました。タイトルホルダーとコンピュータ将棋の公式戦は、渡辺明竜王Bonanzaの対戦以来実に10年ぶりです。

そして、現行の電王戦が今回の第2期をもって終了となることも併せて発表されました。2年前にも電王戦FINALと銘打って開催されましたが、これは5対5の団体戦形式の最後という解釈であったのに対し、今回は主催社ドワンゴの川上量生会長の「役割を終えた」との発言もあり、プロ棋士とコンピュータ将棋の真剣勝負がこの舞台で見られるのは今春が最後となる見込みのようです。

電王戦のページで閲覧できるPV(プロモーションビデオ)では、名人とコンピュータの頂上決戦、という点が繰り返し強調されており、今回を記念碑的にも最後の対戦とする意図が感じられます。叡王戦はタイトルホルダーでも段位を肩書とする決まりだったため佐藤名人は九段として叡王戦に優勝しましたが、これを見る限り佐藤名人と電王Ponanzaとの対決、と表現して差し支えなさそうです。振り駒は昨年3月にコンピュータ囲碁のAlphaGoと対戦した韓国の囲碁棋士イ・セドル九段によって行われ、第1局の先番はPonanza第2局の先番は佐藤名人に決まりました。

第2期電王戦に先立って、賞金300万円企画などの関連イベントも開催されますので、関心のある方はリンク先をご覧ください。

なお、叡王戦は今後も継続、そして将棋電王トーナメントについても何らかの形で続く見込みとのことです。史上最高の高額賞金コンピュータ将棋大会の継続が期待されます。

最後の電王戦、ということで、ついにこの時が来てしまった、という残念さはありますが、いかにコンピュータ将棋の進歩が速く力強いものであったかが示された、ともいえます。名人との対局が、歴史的な名勝負となることを期待しましょう。

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第27回世界コンピュータ将棋選手権 参加者募集中

2017年5月に開催される第27回世界コンピュータ将棋選手権の参加者募集が開始されています。申込受付は来月1月末までです。

時間ルールが初期10分、1手ごとに加算10秒の「フィッシャークロック・ルール」である点、会場が川崎市産業振興会館である点は前回と同じです。

前回から変わった点のうち主なものを簡単に列挙しておきます。

  • 「主要な開発者」以外の関与についての制約を緩和しました。
  • 256手目で詰ませたとき等は、詰ませた方の勝ちであることを明記しました(なお、前回も256手目で詰ませた場合は後手の勝ちとして処理しております)。
  • ライブラリ規程が変更され、バージョンアップ等に対応しました。
  • 開催日時は5月3日(水、祝)〜5日(金、祝)です(曜日を除いて前回と同じ日付です)。

多数の参加者・観戦者をお待ちしております。

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【番外編】コンピュータ囲碁DeepZenGo、トッププロ棋士に挑戦

8ヶ月前の3月、当ブログにて、【番外編】あすからコンピュータ囲碁がトッププロ棋士に挑戦、という記事を掲載いたしました。このとき紹介したAlphaGoは、広く報じられた通りイ・セドル九段と5局対局し4勝1敗と勝ち越し、内容でも圧倒して新時代の到来を証明しました。この五番勝負の直前まで、世界最大のコンピュータ囲碁大会である第8回UEC杯コンピュータ囲碁大会優勝者/準優勝者がプロ棋士に3子〜4子置かせてもらっていい勝負、という状況だったため、互先(ハンディキャップなし)での完勝というあまりの急激な進歩には、プロ棋士や人工知能の専門家でさえも唖然とさせられました。

かつてのコンピュータチェスのディープブルーのように、コンピュータ囲碁においてAlphaGoが独走態勢を築いた、と多くの人がこのとき考えましたが、2016年を終える前にそれを追撃する勢力が現れました。先述の紹介記事でも触れたDeepZenGoが、第2回囲碁電王戦にて、趙治勲名誉名人・25世本因坊に互先で挑むことになり、すでに第1局第2局が行われ、ニコニコ生放送にて中継されました。本記事は今年2度目の【番外編】となりますが、当ブログにおいて未了であったAlphaGoの打った碁についての簡単な総括も兼ねて、コンピュータチェスやコンピュータ将棋とも異なる展開を見せているコンピュータ囲碁の人類への挑戦について、コンピュータ将棋と比較しつつ再度触れることとします。

イ・セドル九段-AlphaGo戦の内容

AlphaGoの強さは、イ・セドル九段との対局の直前に予想されていた水準を遥かに上回るものでした。AlphaGoの特長は、単に強いというだけでなく、コンピュータチェスやコンピュータ将棋のイメージとはまた異なるゲーム人工知能の姿です。多くの人々にとってコンピュータ将棋のイメージは、とにかく読みが深くて正確、特に中・終盤に強く、剛腕をもって人間を圧倒する、一方で人間の奇抜な序盤作戦(例: 電王戦FINAL第5局)に引っかかるなど大局観や構想力についてはさほどでもない、というものでしょう。

これに対し、囲碁のプロ棋士や高段者によるAlphaGoの評価は、特に布石(序盤)の感覚、大局観に優れる、というものです。碁盤の隅や辺の確定的な地(囲碁用語で実利と呼ばれる)よりも、終局時の地の大きさが未知数な碁盤中央の厚み(勢力)を人間よりも重視し、実際に優位に立って逃げ切ってしまう、という展開で多くの勝利をものにしていました。デジタル的な計算で求めにくい要素で人類を大きくリードしてしまったのです。唯一AlphaGoが敗れた第4局は、優勢になりながらイ・セドル九段の白78の勝負手に対して攻め合いの読みを誤る、という予想外の展開でした(現在のAlphaGoはこの不具合を起こさないように改良されているそうです)。

このような特長は、近年コンピュータ囲碁で成果を挙げてきたモンテカルロ木探索(PDF)ディープラーニングの技術をAlphaGoも採用していることからある程度事前に予想されてはいましたが、その水準の高さは革命的でした。コンピュータ将棋の黎明期、「コンピュータ将棋は駒の損得ばかり重視して大局的な判断ができない」などと言われていましたが、このような過去の人工知能のイメージは完全に捨て去られるべき時代に入った、といえるでしょう。

人間の評価と影響

囲碁棋士によるイ・セドル九段戦後のAlphaGoへの評価はこちらなどにまとめられています。コンピュータ囲碁がコンピュータ将棋以上に大きな影響をプロ棋士に与えていることが伺えます。実際、最近のプロ棋士の公式戦ではAlphaGoの影響を受けたと思われる手が多数打たれているようです。5番勝負の棋譜はディープマインド社のサイトで見られます。

AlphaGoの開発において、このような変化が意図もしくは予想されていたかどうかは定かではありませんが、DeepZenGoプロジェクトについては、日本棋院が開発に協力していることから、コンピュータ囲碁の成果を布石の研究などに取り入れて人間の技術の進歩にも役立てよう、という意欲を多くの関係者が持っているものと思われます。DeepZenGoプロジェクト自体はイ・セドル九段-AlphaGo戦の前に発表されていますが、日本の囲碁のプロ棋士は近年の国際戦で中国・韓国の棋士に対する成績が芳しくないことから、コンピュータ囲碁からのフィードバックを得る意欲が電聖戦の構想の時点ですでにあったようです。AlphaGoの成果を目の当たりにした後にその意欲が増したであろうことは想像に難くなく、その点においてもDeepZenGoには強い期待がかけられているものと思われます。

コンピュータ囲碁の主要技術

コンピュータ囲碁の根幹をなす技術については、先述の通りモンテカルロ木探索(PDF)ディープラーニングが2本柱です。今年の第9回UEC杯コンピュータ囲碁大会では上位チームが軒並みこの2本を擁していたようで、オープンイノベーションの時代を象徴しているともいえます。コンピュータ将棋でも近年、オープンソースの強豪ソフトの増加や有力チェスソフトの技術の進化などにより、有力な技術の共有化が深まる傾向にありますが、コンピュータ囲碁ではこの2つがあまりにも強く、必須技術となっているようです。特にディープラーニングは現代の人工知能における主力技術であり応用範囲も極めて広く、多くの企業や研究者も研究開発に参加しているため、チェス専用チップが組み込まれていたディープブルーのような、真似をする人がほとんどいなさそうな技術よりもはるかに多くの注目が集まっているはずです。

AlphaGoDeepZenGoもこの2本柱からなります。先日の記事でも紹介したAlphaGoの技術について少し補足すると、ディープラーニングの技術を応用し、主に過去の棋譜からの学習で作り上げたポリシーネットワークと、主にコンピュータ自身による実戦シミュレーションによる強化学習で作り上げたバリューネットワークの2つの多階層ニューラルネットワークが重要な役割を果たします。DeepZenGoの技術もおおむね同様のようですが、メインプログラマの尾島陽児氏によって独自性がかなり盛り込まれているようです。第2回囲碁電王戦の終了後、DeepZenGoの技術についてより詳しい情報が明らかになることが期待されます。

第2回囲碁電王戦

冒頭に述べた通り、第2回囲碁電王戦はすでに2局を終了しています。第1局趙治勲名誉名人・25世本因坊が勝利しましたが、第2局DeepZenGoが悲願の勝利を挙げ、最終第3局に三番勝負の勝ち越しをかける(2連勝もしくは2連敗でも第3局が行われることは決まっていましたが)という最高の展開になっています。この2局について、明らかに損な手を打つなど中・終盤には疑問手も見受けられるものの、布石については高い評価を得られているようです。第1局のニコ生解説の一力遼七段は「(布石について)僕より強い」、第2局のニコ生解説の高尾紳路名人は「布石はAlphaGo以上ではないか」といったような発言をしています。今回のDeepZenGoのマシンスペックはCPU44コア、GPU4基でクラスタなし、と、イ・セドル九段戦時のAlphaGoのCPU1202個/GPU176基を擁するクラスタに比べて慎ましい構成ですが、これでトッププロに勝利したということは、AlphaGo以上の快挙をすでに成し遂げているともいえます。

大一番となる最終第3局は、11月23日(祝)に行われ、ニコニコ生放送で生中継されます。井山裕太六冠王がニコ生解説を担当する必見の一局。視聴方法については第2回囲碁電王戦のページをご覧ください。AlphaGoのときとはまた異なる歴史的瞬間が見られるかもしれません。

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コンピュータで不正行為? コンピュータ将棋を使って将棋の対局に勝てるか

3日前の10月12日(水)、公益社団法人 日本将棋連盟(以下、将棋連盟)が、第29期竜王戦七番勝負の挑戦者が変更されたことを発表し、数多くの将棋ファンを驚かせました。ニュースは一般のマスコミにも取り上げられて広く知られることとなり、「コンピュータの助けを借りてプロ棋士が対局に勝つことができるのか?」という解説も各方面で行われたようです。当協会の関係者や学識経験者も取材を受けています。大変なことではありますが、コンピュータ将棋の技術について周知されるに適した機会ですので、当ブログで簡単な解説を試みます。

不正行為は可能?

20年以上前からサービスが行われているネットの将棋サイトの多くで「将棋コンピュータソフト使用禁止」とされていることをご存じの将棋ファンの皆さんにとっては、将棋ソフトの有効性は明らかでしょう。プロレベルでも通用するのか、という点が議論の焦点ですが、今年行われた第1期電王戦でも、その前の過去4回の電王戦でもコンピュータが好成績を収めていることから、コンピュータソフトに実戦の局面を入力してコンピュータの示した手をそのまま実際の対局でも採用する、ということを実行できれば、プロでもほとんどの対局で勝てるでしょう。

プロ棋士の対局でコンピュータソフトの助けを得る方法については、対局中に席を外してスマートフォンを使う、という説が各方面で示されています。強いコンピュータ将棋ソフトの多くはパソコン用に開発されたものですが、その一部はスマートフォン用に移植されているようで、スマフォアプリの実力はノートパソコンと同等以上、と言われているそうです。携帯電話の計算力はパソコンに引けをとる、と考えられることが多いのですが、最近のスマートフォンはメモリ容量も大きく、CPUの動作クロックも速いので、制約はパソコンよりは大きいものの、将棋が目に見えて弱くならざるを得ないほどのハンディキャップがあるとはいえません。 Read the rest of this entry »

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