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将棋電王戦FINAL第五局はAWAKE開発者が投了、団体戦はプロ棋士チーム勝ち越しで決着

本日東京将棋会館で行われた将棋電王戦FINAL第五局、▲阿久津主税八段 – △AWAKEの一戦は、AWAKE開発者の巨瀬亮一さんの判断での投了により、開始から1時間たらずで終局しました。形式的には、21手で阿久津八段の勝ち、ということになるようです。団体戦としては3勝2敗、過去4回の電王戦で初のプロ棋士チームの勝ち越しで決着となりました。

阿久津八段が採用したのは、アマチュア参加企画「電王AWAKEに勝てたら100万円! 」でAWAKEが唯一の敗戦を喫した、AWAKEにわざと△2八角と打ち込ませて△1九角成とさせ、それを▲3八玉~▲5八金左~▲4八金直~▲1七桂~▲6九飛で殺そうという作戦。100万円チャレンジでの持時間10分・秒読み10秒ルールではAWAKEが罠にはまる確率はあまり高くありませんでしたが、持時間5時間・秒読み1分の一発勝負である将棋電王戦FINALAWAKEはその罠に堕ちてしまいました。また100万円チャレンジではAWAKEが△2八角を打っても挑戦者がその後に正確に受け切れず、1局を除いてAWAKEが勝ちましたので、投了せず対局を続ければAWAKEにも勝ち目があるようにも思われましたが、開発者は潔く投了。巨瀬さんはご自身も棋力の高い方ですので、判断は妥当なのでしょう。

電王戦では今までも、入玉模様や投了のタイミング、角不成に対するバグによる終局など、さまざまな決着の形やそれに対する議論がありましたが、今回の結末もまた物議をかもすことになるでしょう。今回のこれはバグではなくコンピュータ将棋の弱点を突かれたもので、コンピュータは弱いから負けたのだ、ということになるでしょう。昨今、人工知能に対する関心が世界的に高まっていますが、このようなセキュリティーホールを突かれても人工知能は正常に機能できるか、という議論は今後数多くなされるであろうと思われます。そういう意味も含め、阿久津八段は対戦相手に対するベストプレーを行った、と言えるでしょう。今回のことが批判の対象となるとすれば、対局者でなく、対局者の片方が一方的に開発成果を閲覧できる上に、他方は開発期限以降の改良を認めない(ホモロゲーション)、というレギュレーションの是非が問われるべきでしょう。今回は当初の予定を変更し、当ブログを午前中に取り急ぎ更新いたします。

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新刊紹介: ドキュメント コンピュータ将棋

当ブログにて昨夏にご紹介した ルポ 電王戦の著者、松本博文さんによるコンピュータ将棋の著作第2弾。出版社が異なるものの前作から1年たらず、好評につき矢継ぎ早の続刊…かと思いきや、続編という位置づけではない、とのこと。将棋の歴史に登場した、異端としてのコンピュータ将棋が、プロ棋士や将棋ファンの考え方や感情、価値観に及ぼすさまざまな影響。時には江戸時代の故事やしきたりにも言及しつつ、人間の感覚とかけ離れた指し手、投了をめぐる問題、必勝形となりながら入玉形になると途端に拙くなり引き分けに持ち込まれるさま、果ては訴訟に発展した筆禍事件などなど、広範囲のエピソードと多様な考え方を紹介しています。

しかしながら全9章の章立ての大半は電王戦の対戦カードであり、特に本書の中盤から終盤、電王戦FINALに登場する5人の棋士と5つのコンピュータ将棋の来歴にぐいぐいと引き込まれます。いかにしてここまで来たか、なぜ戦うのか、なぜ強くなれたのか、技術解説は大まかな概念レベルにとどまってはいるものの、それぞれの技能と情熱が両輪となって、最高レベルの将棋にまで登りつめるさまが描かれています。また、天才たちが紡ぐドラマ、という副題に現れているように、強くなる/強くする喜び、人との出会い、良きライバル同士が刺激し合い、またBonanzaストックフィッシュのソースコードなどを通じた技術交流と、そこにはきわめて社会的な、人間くさい姿があらわれています。その天才の中にも、5歳でプログラミングを始めた早熟な人から、人生の挫折を経験した後で始めた人まで、さまざまな姿があります。

電王戦FINALの対戦カードが決まってから本番まで、と限られた時間にもかかわらず緻密で正確な取材、また著者得意の将棋の図面や写真をあえて使わず文章のみで一気に読めるスタイルは、前作を引き継いでいます。著者が長年にわたって積み重ねた将棋についての知識と教養、そしてコンピュータ将棋選手権ネット中継を担当した蓄積に裏付けられた、付け焼刃では決して書けない内容。伝統技芸と最新技術の組み合わせをミスマッチでなくコントラストとして鮮やかに描き出しています。明日、終焉を迎える電王戦FINALの前に読み切るもよし、戦いの後でじっくりと振り返るもよし。ともあれ、前作に続いて是非皆さんにお読みいただきたい著作です。

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将棋電王戦FINAL第4局はponanza勝ち、団体戦決着は最終局へ

本日薬師寺で行われた将棋電王戦FINAL第四局、▲ponanza – △村山慈明七段の一戦は、97手でponanzaが勝ちました。団体戦としては、当初2連敗でプロ棋士チームに先行を許したコンピュータ将棋チームが2連勝を返し、五分に戻しています。

ponanzaの初手▲7八金で始まった本局は、第三局に続いて15手目▲3四飛の横歩取り。対する村山七段は、プロの公式戦では数少ない△8八角成▲同銀△7六飛の相横歩取りを選び、対コンピュータで有力とされる中盤の短い展開に持ち込む作戦か、もしくは事前に用意した手順への誘導か、と思われました。しかし、いかにも秘策、という手順を披露したのは、これを▲7七歩△7四飛▲3六飛という手順で返したponanzaの方。続く△3三桂に▲2六飛△2五歩▲5六飛△4二銀▲8六飛と、△4二銀をわざと指させる手損作戦を採用しました。

いわゆる壁銀の形で▲7七歩と受けながら△7四飛に▲同飛とせず駒組を続ける指し方は奇異に見えましたが、その後の▲8六飛に△8二歩なら▲8三歩から激しく攻め、その場合に先手の壁銀の固い形が生き、後に▲2一飛と打ち込み△4二銀が悪手になる展開が考えられました。村山七段はそれを察知してか△8二歩でなく△8四歩と受け、ponanzaに▲8三角から馬を作らせる作戦を選択。

以下、先手の馬の力に後手が手得で対抗する展開になりましたが、ponanzaが馬の力を生かした攻めで優勢に。この後69手目▲4六桂をきっかけに、先後双方の多数の駒に当たりがかかる激しい局面になりましたが、ponanzaは最後まで妥協しない指し手を続け、前局やねうら王に続く完勝。

最終第五局は4月11日(土)、▲阿久津主税八段 – △AWAKE戦が東京将棋会館にて行われます。最後にプロ棋士が意地を見せてチーム初の勝ち越しとなるか、それとも、将棋電王戦FINALをもってコンピュータ将棋が人類を超越したことが証明された、と宣言される結果となるか。最高の展開でクライマックスを迎えます。

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将棋電王戦FINAL第3局はやねうら王勝ちコンピュータ将棋チーム初勝利

本日五稜郭にて行われた将棋電王戦FINAL第3局、▲稲葉陽七段 – △やねうら王の一戦は、116手でやねうら王が勝ちました。団体戦としてはコンピュータ将棋チームが今シリーズ初勝利で1勝2敗とし、プロ棋士チームの勝ち越し決定はお預けとなりました。

本局の戦型は、【電王戦FINALへの道】#28の練習対局で現れたのと同じく、先手稲葉七段の横歩取りに対してやねうら王の3三桂型。練習対局と同じく▲9七角と上がって△8九飛成を誘い、▲8八角と龍を閉じ込めて優位に立つ策に出るかと思われましたが、稲葉七段はこれを見送り、普通の中住まいの形に構えました。そして昼食休憩後、稲葉七段の47手目▲2七歩が強気な一手で一気に激しい戦いに突入。局後の記者会見にて、やねうら王の開発者の磯崎元洋さんは、電王手さんの動作時間があるため練習対局のときより考慮時間が長くなり、やねうら王の序盤の指し手が変化した、との見解を示しました。対する稲葉七段は、△8九飛成を許すと後手に暴れる手順が生じる形であったため▲9七角を断念したこと、また42手目△1三角の形が後手にとって非効率とみて決戦に踏み切ったことを、局後の記者会見で明かしました。

稲葉七段の注文で開戦となったにもかかわらず、後手のやねうら王は駒損ながら飛を成り込んだ後、角を交換、66手目△6六桂の王手と好調な攻め。大盤解説会場では夕刻に早くもYSSが-2000を超える評価値、すなわち後手勝勢を示しました。稲葉七段は、駒得がみるみる大きな駒損に変わっていく代償に入玉を目指すことに。

2年前の第2回電王戦第4局の​塚田泰明九段 – Puel​la αが思い出される局面となり、勝敗はコンピュータ将棋の苦手な入玉模様の指し方にかかってきました。やねうら王が先手玉を逃がせば引分、もしくは逆転負けも考えられる展開になりましたが、114手目の△2六銀が鋭い捨て駒で、先手玉を下段に引き戻して寄せ切りました。引き戻される前に入玉を確定させる指し方を先手が選べたようにも見受けられましたが、稲葉七段は駒損が大きすぎるため入玉を急いでも捕まえられると判断し断念したとのこと。今日のやねうら王は、最後までコンピュータ将棋の弱点を突く隙を与えなかったようです。

来週4月4日(土)の第4局は、▲ponanza – △村山慈明七段戦が奈良・薬師寺で行われます。団体戦としては依然としてプロ棋士チームを追いかける立場のコンピュータ将棋チームですが、準電王・電王がともに勝てば、将棋電王戦FINALもまたコンピュータ将棋チームの勝ち越しで終わることになります。

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将棋電王戦FINAL第2局は永瀬六段勝ちプロ棋士チーム連勝、バグによる終局

本日高知城にて行われた将棋電王戦FINAL第2局、▲Selene – △永瀬拓矢六段の一戦は、89手目のSeleneの指し手が王手放置の反則、と裁定され、永瀬六段の勝ちとなりました。団体戦としては、プロ棋士チームの2勝0敗となっています。

本局は先手のSeleneが17手目まで角道を開けない居飛車で力戦型に誘導すると、後手の永瀬六段も居飛車で角交換の後に玉を固く囲う陣形を選択。Seleneが右玉に囲ったことで戦いのきっかけが生じにくい形となり、永瀬六段が公式戦で千日手の多い棋士であること、本局の前のインタビューでも千日手を辞さない意志表示をしていたことから、膠着状態のまま千日手となる予感が漂う展開となりました。

しかし48手目△7三桂に対して、これを目標にSeleneは▲2四歩から1歩を持駒にして▲7五歩と先攻し激しい戦いに。そして難解な終盤戦に突入。大盤解説場に表示されていたやねうら王の評価値は先手Seleneの優勢を示していたのですが…。

なんと、永瀬六段の88手目△2七同角不成を指したところでSeleneにトラブル発生。角不成を正常に処理できなかったらしく、自らの負けを宣言して対局を終えてしまいました。局後の記者会見によれば、Seleneが王手の△2七同角不成を放置して▲2二銀と指してしまい、将棋所の反則チェック機能によって負けとなったとのこと。その場で協議が行われ、王手放置により永瀬六段の反則勝ち、と裁定されました。

裁定の直後、永瀬六段ニコニコ生放送の番組に登場し、Seleneが角不成を正常に処理できないことを事前の対策で知っていたことを明かすとともに、△2七同角不成以降の対局が続いた場合の自らの勝ち手順を解説し、不具合が未修正でも修正済でも勝ち、と見越して△2七同角不成と指したことを明かしました。なお、飛、角、歩の不成は打歩詰が発生しうる稀な局面でのみ意味があり、この角不成は打歩詰とは関係ありませんでしたが、対コンピュータ将棋では不成によって相手の予測読みを外して余計に考慮時間を消費させる、などの効果が生じることがあります。

Seleneにとっては残念な結末となってしまいましたが、終盤は優勢と読んでいたようで、永瀬六段に読み負けていたのは確かのようです。△2七同角不成の後、▲同玉△1七香成▲2六玉△1四桂▲同と△同銀▲1五歩△同銀…以下の長手数の寄せを読み切ることがコンピュータ将棋にとって意外に難しいらしく、先週の斎藤慎太郎五段 – Apery戦に続き、コンピュータ将棋の弱点が明らかになった、と言えるのかもしれません。上記の詳しい手順や説明は、ニコニコ生放送の番組の終盤戦、および局後の解説などをご覧ください。

人間がコンピュータに抜かれる過程の最後、と見る向きも多かった将棋電王戦FINALですが、電王戦シリーズでは初めてプロ棋士チームの2勝、それに2戦で到達し、これまでとはまったく異なる展開となっています。コンピュータ将棋チームは残り3局がすべて負け越しへのカド番となり、気の早い巷間では「”FINAL” が撤回されるのでは」という期待の声も聞こえます。来週3月28日(土)の第3局、▲稲葉陽七段 – △やねうら王戦の舞台の函館・五稜郭が、団体戦の決戦の地となるかもしれません。

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