Archive for コンピュータ

情報処理Vol.55 No.8「第3回将棋電王戦を振り返って」

情報処理 2014年08月号


ひと月遅れになってしまいましたが、情報処理学会会誌2014年08月号に掲載された11ページ記事「第3回将棋電王戦を振り返って」を紹介します。記事には、第3局に勝利した豊島将之七段による自戦解説と、MVPを獲得した習甦の開発者の竹内章さんによる非線形評価関数の改良についての技術解説があります。解説中、豊島七段自身をはじめとするプロ棋士や電王戦の観戦者の意見は、コンピュータ将棋への一般的な評価とはひと味異なるものが多く、コンピュータ将棋開発者や将棋ファンにとっても示唆に富んでいるといえます。

加えて、第3回将棋電王戦や今期の名人戦の結果など最新に近いデータを反映させ回帰分析によってプロ棋士とコンピュータ将棋の強さを比較推定した記事では、人のトップとコンピュータの実力がいよいよ接近していることが数値で示され、「人間のトップがコンピュータに勝つのはまさに今しかない」と結論づけられています。

なお、本記事の紹介がびと月遅れてしまったため、すでに09月号も発行されています。そちらには第24回世界コンピュータ将棋選手権の紹介記事はなさそうですので、こちらは10月号を待つことになりそうです。

Leave a Comment

新刊紹介: ルポ 電王戦

ルポ 電王戦―人間 vs. コンピュータの真実 (NHK出版新書 436)

本書の著者、松本博文さんは、コンピュータ将棋選手権ネット中継を長年にわたって担当し、世界コンピュータ将棋選手権の模様をリアルタイムで伝えてきた人です。前世紀からいち早く「ネット中継」というスタイルを確立した将棋観戦記者の先駆けとしての経験を足掛かりに、コンピュータ将棋史の決定的な場面をこのブログで伝え、そしてそれらが本書にも記されています。加えて、あるときは日本将棋連盟のインサイダー、あるときは2年続けて「100万円チャレンジ」にてコンピュータ将棋をあと一歩まで追い詰めたプレイヤー、すなわち本書の重要人物としてたびたび著者自身が登場して読者を驚かせます。

しかし本書は「見聞録」や「漫遊記」ではなく、第24回世界コンピュータ将棋選手権のドラマからわずかひと月の興奮を伝える、おびただしい数の登場人物たちが怒涛のごとく描かれた「ルポ」です。特にコンピュータ将棋の開発者やその周囲を入念に取材し、技術的な記述も正確です。一方で、大山康晴、升田幸三の昭和の名棋士が遺した言葉を引くなど、コンピュータ将棋が半世紀近く、いかにしてプロ棋士と電王戦を争えるまでに強くなり続けたか、がプロ棋士や著名人の目を通して立体的にわかるお得な1冊にもなっています。そして、渡辺明竜王(当時)対Bonanza清水市代女流王将(当時)対あから2010の対戦を経て、多くの人々が抱いた百人百様の思いを束ねた米長邦雄永世棋聖の決断に導かれ、第1回第2回第3回の電王戦にて、計11局の過酷な、ゆえに歴史的なプロとコンピュータの戦いが繰り広げられます。

コンピュータ将棋選手権ネット中継では、著者は写真と局面図をふんだんに使って世界コンピュータ将棋選手権をリアルに伝えていますが、本書ではあえてそれらを封印して文字だけで全頁を書き切っています。それだけに立ち止まるきっかけがないまま一気に読み進めてしまうこと請け合い。コンピュータ将棋の開発者や熱心なウォッチャーの皆さんなら、場面が次々に脳裏に浮かんですらすらと読めるでしょう。人類とコンピュータの対戦はいかにあるべきか? あとがきの『本書は…』の筆者による総括を目にしたとき、誰もがそのテーマを語るにふさわしい論客となっているでしょう。

Comments (1)

将棋世界7月号に第24回世界コンピュータ将棋選手権と第3回電王戦記事

将棋世界 2014年 07月号 [雑誌]

月刊将棋世界2014年7月号にて、第24回世界コンピュータ将棋選手権の特集記事と、第3回電王戦の振り返り記事が、それぞれ10ページずつ掲載されています。前者は鈴木健二さん、後者は北野新太さんの執筆。

第24回世界コンピュータ将棋選手権特集記事『新星「Apery」大逆転で初優勝!!』は、全3日間の模様を余すところなく伝えていますが、今回は決勝リーグで2ゲーム差が覆る大きな逆転があったためか、最終日、特に後半戦の優勝決定までの模様に多くの誌面が割かれています。局面つき解説は決勝リーグから10局。現地大盤解説会での勝又六段遠山五段ほかの解説の模様、開発者へのインタビューに基づく技術解説も交えて熱戦の模様を伝えています。

特別寄稿『敗れてもなお』は、第3回電王戦に出場した5人の棋士全員へのインタビュー内容をもとに、対局前の心境と、棋士チームの1勝4敗という結果を受けての総括がプロ棋士の立場からつづられています。「事前貸し出しルールを活かしてもっと端的にコンピュータ将棋の弱点を突く戦略を採るべきだったのでは?」という疑問に対する答え、前回との微妙な雰囲気の違いは、コンピュータ将棋が前回からさらに進化したこと、そして今後の将棋電王戦がどうなっていくのか、など、コンピュータ将棋関係者にとっても関心を寄せずにはいられない論点を思わせられます。

このほか、飯島七段の連載講座では、第3回電王戦にて豊島七段に対してYSSが指した△6二玉について詳しく解説され、『ぼくはこうして強くなった』では森下九段第3回電王戦への出場について直接語っています。『ニコニコ超会議3「全員主役。」』では、コンピュータ将棋や電王手くんが登場した企画について書かれ…という具合に、将棋の話題として完全にコンピュータ将棋が定着しています。

将棋世界は全国の書店やネットショップで購入できます。電子書籍については数通りの形式で購入できますので、こちらの「電子版のご案内」の欄から購入先をお選びください(本記事冒頭の画像をたどるとアマゾン キンドル版が購入できます)。将棋世界の前回までの記事紹介ではiPad用の電子書籍アプリを紹介していましたが、こちらは新刊の発行が終了しておりこちらで購入することはできません。対象端末やアプリが限定されなくなり、パソコンやiPhone/iPad、Android、キンドルなど多くの端末で購読可能になりましたが、記事内で駒が動く機能はなくなりました。通常書籍版より安価で付録なし、という様式は変わらないようです。

Leave a Comment

第24回世界コンピュータ将棋選手権はAperyが初優勝

第24回世界コンピュータ将棋選手権は本日、決勝リーグが行われ、Apery(エイプリー)が5勝2敗で初優勝をおさめました。

今回の決勝リーグは5回戦終了時点でponanzaが5連勝で単独トップを走り、2位以下が3勝2敗以下だったため、ponanzaは残る6回戦、7回戦のどちらかを勝つか千日手引分に持ち込めばよい、という状況になり、圧倒的優位と思われました。しかし6回戦で3勝2敗だったAperyponanzaとの直接対決で詰めろ逃れの詰めろを放って寄せ合い勝ちし、7回戦を残しての優勝決定をまず阻止。続く最終7回戦では、YSSponanzaに勝ったため、AperyN4Sに勝って5勝2敗でponanzaと並んだ上、勝った相手の勝ち点数がponanzaを1点上回り、逆転優勝を果たしました。

6回戦終了時点ではNineDayFeverも4勝2敗で、7回戦に勝っていればAperyを上回っていましたが、激指に敗れ4位。準優勝のponanzaに次ぐ3位のYSSは1〜3回戦の3連敗が響いて優勝は逃したものの、残り4局を全勝。その4局は優勝のAperyと準優勝のponanzaに対する勝利を含んでおり、健在ぶりを見せつけました。

独創賞はNineDayFeverが、新人賞はN4Sが受賞しました。

今回の選手権の対局の棋譜はすべて第24回世界コンピュータ将棋選手権 ライブ中継で振り返ることができます。選手権開始直前から表彰式までの様子はコンピュータ将棋選手権ネット中継ブログでエピソードと映像を見ることができます。ハッシュタグ “#csalive” のTwitterのつぶやきも多数寄せられています。さらにニコニコ生放送にて2次予選決勝リーグの動画中継が行われていましたので、これもタイムシフト試聴することができます(要会員登録)。タイムシフト予約されていない方でも、ニコニコプレミアム会員であれば予約期限内での事後予約によって視聴が可能です。

最後に、決勝リーグの最終順位順の結果をどうぞ。

Leave a Comment

第24回世界コンピュータ将棋選手権、決勝リーグ8チームの顔ぶれ決まる

追記(5/6): 末尾にリーグ表を加えていなかったため追記しました。

第24回世界コンピュータ将棋選手権は本日2日目の2次予選が終了。明日の決勝リーグを戦う8チームが決まりました。

今日は波乱の展開で予断を許さない混戦でしたが、最終9回戦で当落線上のチームの多くが勝ったこともあって予選通過ラインは5.5勝まで上がりました(前回は5勝4敗のうち3チームが通過)。顔ぶれは前回選手権の決勝リーグ進出8チームのうち6チームが連続での進出。激指は前回と同じ8勝1敗でのトップ通過。昨年準優勝のponanzaはクラウド使用中のネットワーク接続トラブルにたびたび見舞われ星を落としましたが、最後はノートPCでの稼働で勝利を収め5位通過。YSSは行楽渋滞に巻き込まれて1回戦不戦敗を喫したのが響いて一時は1勝3敗と絶望的に見えましたが、その後5連勝でみごと復活。出場した選手権すべてで決勝リーグを戦う記録を23回にまで伸ばしました。N4SAperyの2チームは、直接対決での千日手引き分けで得た0.5勝がものをいって、ともに初の決勝リーグ進出。ほかNineDayFeverツツカナBonanzaが明日の決勝リーグを戦います。

一方、選手権優勝2回、第2回電王戦三浦八段(現九段)に完璧な勝利を収めたGPS将棋と、第3回電王戦菅井五段に勝ちMVPを獲得した習甦は2次予選通過を果たせず、2次予選はまたもその過酷さを見せました。

対局の内容については、第24回世界コンピュータ将棋選手権 ライブ中継をご覧ください。コンピュータ将棋選手権ネット中継ブログも1次予選に引き続き選手権の模様を伝えています。Twitterのつぶやきはハッシュタグ “#csalive” にて。そしてもちろん、決勝リーグもニコニコ生放送動画中継が行われます。プロに勝つ実力をもってしても安住できない最高峰の舞台をお楽しみに。

最後に、2次予選の最終順位順の結果をどうぞ。

Comments (1)

« Newer Posts · Older Posts »