ユーザ・インタフェース、ちょっとしたことが大事

第18回世界コンピュータ将棋選手権2日目と同じ日に開幕した、今期の大和証券杯ネット将棋最強戦(ちなみに開幕戦に登場した村山五段はその翌日が第18回世界コンピュータ将棋選手権の決勝リーグの解説だったため、相当ハードな旅程だったようです)。昨日の1回戦第2局は渡辺竜王vs羽生二冠という豪華カードだったのですが、なんと羽生二冠が時間切れ負け。当ブログ主はこの超人気カードの決定的瞬間を見逃していましたが、観戦サイトでその対局を見ると、「着手確認のチェックを入れたままでした」という羽生二冠の敗戦の弁が残されています。

え? それって、時間切れと同時に着手確認がOKになるように作られていれば防げたのでは

状況を整理して説明します。現在は日本将棋連盟の傘下に入っている将棋倶楽部24でインターネットを通じての対局を行うときに使う操作用の将棋盤には、「着手確認」と書かれたチェックボックスがあります。これにチェックを入れておくと、マウスで駒を動かしたとき、[OK]か[キャンセル]かを選ぶダイアログボックスが現れ、[OK]ボタンを押すことで初めて着手が完了し、相手に手番を渡すようになります。つまり、まれにマウス操作を誤って異なる駒をつかんだり打ちおろし場所を間違えたりしたときに[キャンセル]ボタンで取り消せるように、確認のためのアクションを最後に追加できるようになっているわけです。恐らく大和証券杯ネット将棋最強戦でも、これとほとんど同じ将棋盤が使われているものと思われます。

羽生二冠のコメントから察するに、 2七に銀を打つマウス操作自体は時間内に完了していたものの、確認ダイアログが出現してから[OK]ボタンを押すまでの間に時間が過ぎてしまった、ということなのでしょう。それなら、仮に時間が過ぎた場合に[OK]ボタンを押したのと同じ処理が強制的に実行されるようなシステムであれば、無事に△2七銀が打てたことになります。もちろん、現実には[OK]ボタンを押していないのですから、操作ミスの手をそのまま指してしまう可能性がありますが、時間切れで即負けるよりはましでしょう。というわけで、当ブログでは羽生二冠のマウスの練習よりも操作方法の見直しをお奨めいたします。

当ブログ主も将棋倶楽部24でよく将棋を指しますが、着手確認システムは今回この記事を書くために初めて利用しました。この機能を有効にするとマウス操作の負担感がかなり増すので、操作ミスを防げるメリットがわかっていても利用する気になったことはありません。なのでこの機能について普段は深く考えることもないのですが、時間切れがOKにならない仕様になっているというのは少々意外でした。しかし、マウス操作を受けつけるようなソフトを開発する際に、こういうちょっとした工夫を抜け目なく施しておくのが意外に難しいのも事実です。

コンピュータが操作内容などの情報を受け取ったり、操作結果などの情報を送り出したりする部分をユーザ・インタフェースといいますが、私たちコンピュータの利用者は普段、キーボードとマウスとディスプレイを介して何とかする、とおぼろげにしか考えていないものです。しかし実は、まさにこの部分が人の運命を変えるほどの勝敗の分かれ目になることがあります。近年もっとも影響が大きかったのは、今や世界を代表するゲーム企業の座を取り戻した任天堂の躍進でしょう。かつてファミリーコンピュータスーパーファミコンの大ヒットで得た地位をいったんは失ったものの、ニンテンドーDSのタッチスクリーン、Wiiのリモコンという画期的なユーザ・インタフェースはふたたび世界を虜にしました。これらのアイデア自体は親しみやすい種類のもの。しかしこのユーザ・インタフェースが生まれるまでには長い年月を要しました。

今や任天堂の元社長の山内氏は日本一の長者、さらには日本の上位40人のうち6分の1がゲーム業界人だそうですから、コンピュータ将棋もあやかりたいものですねぇ。実は当ブログのこれも、少しでもよいユーザ・インタフェースを将棋にも、と思って作り始めたものです。今のところは流行っているものの物真似にすぎませんが、すでに見慣れているものを繰り返し突き詰めて考えないと、よいユーザ・インタフェースは生まれないでしょう。

そうそう、復活といえば、アップルiPodのクールなタッチ・インタフェースで存在感を取り戻しました。今のコンピュータ将棋が求めているのも、指し手の感触・手ざわりといった感覚的なもの。このようなセンスを磨くことが人工知能分野のひとつの大きな目標でもありますので、ユーザ・インタフェースを考えることで、新たな発明・発見があるかもしれません。

1 Comment »

  1. あまりに遅いフォローコメントですが…。
    http://www.shogi.or.jp/osirase/2008/main.html
    日本将棋連盟の公式発表によれば、羽生二冠王が「誤った操作で別メニューを表示させた」ことにより時間内に着手確認ができなくなってしまった、という結論のようです。
    時間切れと同時に着手確認がOKになる、というユーザインタフェース仕様であれば防げた、ということになりますね。当ブログとして、本案を改善策として提案します。

    もちろん、絶対に操作ミスをしないユーザインタフェースを設計するのは無理ですが、少しでもミスが減るような努力はすべきでしょう。たとえば、将棋会館に将棋を指すためのPCを置くのであれば、マウスでなくタッチパネル式ディスプレイを使うことをお奨めいたします。マウスで駒を動かす場合、移動してクリック、移動してクリック、と都合4つのアクションを要しますが、タッチパネルなら2箇所触れればよいので、無関係のメニューを出してしまうような操作ミスが減らせるだけでなく、速く着手できるようにもなります。これなら秒読みでも残り1秒まで考えられますから、勝率もわずかに上げられるのではないでしょうか。

    http://d.hatena.ne.jp/yaneurao/20080527
    この件、「やねうらお-よっちゃんイカを買いに行くのは控えてコンピュータ将棋に人生を捧げる男」のエントリで思い出したので書いてみました。何故か当ブログ主の環境からやねさんのブログにコメントできなくなっているので、トラックバックで反応いたします。ちなみに、当ブログ主はMac OS Xを使っている最中、ソフトウェアアップデートのポップアップが飛び出してびっくりしたことがあるので、Macは解決策にならないと思います。

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