Archive for 3月 22, 2008

オープンな技術とゲームのルール

世界コンピュータ将棋選手権の参加資格は、「思考部を自作し、かつそれにオリジナリティがあるものに限る。」となっています。通信や画面表示を行う部分などは、自作しなくても他の人のものを使わせてもらったり、複数の参加者が同じものを用いても構わないのですが、指し手を考え、決定する過程は必ず自ら作り上げていなければなりません。

仮にこのルールがなかったらどうなるでしょう。その場合、同じ思考過程をもつコンピュータ将棋が複数の名義で同時に参加しようとするかもしれません。極端な例として、実体がまったく同じ、あるいはごくわずかに変えただけのソフトでできているようなコピー参加者がコピーA、コピーB…コピーZとして参加するかもしれません。こうなってしまうと、たとえ実力の劣るソフトでも、その中のコピーFやコピーLは運よく予選を通過してしまったり、あるいはうっかり優勝してしまうかもしれません。このせいでもっと実力のある参加者の活躍の機会が奪われてはならないのは明らかです。したがってこの「オリジナリティ」ルールは実質的に、ひとりの開発者がひとつの参加チームでしか思考部分を開発することができない、という人員制限となっています。

通信や画面表示などの部分を複数の参加者で共用するだけなら、このようなコピースクラム問題は起きませんので、自作にこだわらず他の人が作ったものをどんどん活用し、できた余裕で思考部分の強化に集中していただきたいところです。今はほとんどのインターネットユーザが、多くのフリーソフトを便利に使いこなしている時代ですから、多くの人々が開発したソフトを相互に活用することの重要性はコンピュータ将棋開発者でなくても理解していただけると思います。近年は、ソフトが無料というだけでなく、ソフトの中身であるソースコードが公開されているオープンソースソフトウェアの存在感が高まり続けています。その代表格であるLinuxの名を聞いたことのない人はほとんどいないでしょう。ネットが普及した現在、自由に流通する大量のソフトによって、単に便利というだけでなく、高度な技術が世界の隅々に容易に行き渡るようになりました。

…と、ここで冒頭に書いたことを思い出すと、実は世界コンピュータ将棋選手権のルールは技術の普及を制限してしまっていることに気づきます。 Read the rest of this entry »

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