将棋世界2007年11月号にて、連載記事「イメージと読みの将棋観」の中で持将棋模様の局面がテーマ図に掲げられています。レギュラー回答者であるトッププロ諸氏の回答が興味深く、また入玉模様の将棋はコンピュータ将棋にとっての難題のひとつでもあるので、今回ここで採り上げてみます。
テーマ図は、後手が勝てるか、あるいは持将棋指し直しが妥当か、トッププロ間でも見解が分かれる難解な局面。加えて24点制のあいまいさに由来する運用の問題点にも多くの言及があり、現行ルールに課題が残ることを認める結論になっています。
人間のエキスパートでさえも悩ませるほどのあいまいさを、現代のコンピュータが妥当に処理することは困難です。当協会が主催する世界コンピュータ将棋選手権でも24点制の採用は無理であるため、代わって明白な勝利条件を規定した入玉宣言法を採用しています(選手権ルール第17条)。しかし、この条件があてはまる入玉模様の局面は限られるため、これまで世界コンピュータ将棋選手権で入玉宣言が行われたことはありません(宣言が可能な局面が出現したことはあります)。これまでの相入玉の将棋の多くは、先後どちらの持時間が先に尽きるか、で勝負が決まっています。
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4 | 一 | |||||||||||
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しかしコンピュータ将棋にとっての真の問題はルールではなく、あいまいなルールでしか処理できないほどの入玉将棋それ自身の難解さにあります。上の図は当ブログ主がでっちあげたものですが、仮に人間とコンピュータとの対戦でこのような局面になったとして、この後人間の玉に上部を開拓されて入玉を目指されると、コンピュータは非常に苦しいはずです。棋風にもよりますが、たとえばアマチュア三段以上の実力者ならば、この図を指定局面として数局、あるいはそれ以上指せば、先後にかかわらず勝ち越し程度の戦績を挙げることはそう難しくないのではないでしょうか。恐らく相入玉の展開にはなりにくいでしょう。ひと昔前までは子供のオモチャだと思っていたコンピュータ将棋ソフトも今では強くなりすぎてトップクラスのソフトにまったく歯が立たなくなってしまった、とお嘆きの皆様、このような局面でコンピュータをいじめて久しぶりに溜飲を下げられるかもしれませんよ。
そんな有利な条件で勝っても慰めにならない、やはり平手で初手から指して勝ちたい、という方は、最初から上の図のような展開になりやすい戦形を選ぶことも策のひとつでしょう。上の図は、相居飛車で相手の飛先交換を逆用して銀冠に組み、角交換して馬を作りあう、という展開を想定して作ったものです。このように玉頭から盛り上がりやすい作戦を練ってみてはいかがでしょうか。人間の好敵手相手に序盤から入玉を目指すのははっきり言って無謀ですが、コンピュータ相手なら試す価値はありそうです。
コンピュータが入玉将棋をいかに苦手にしているか、ここであれこれ述べるよりも、指して実感される方がわかりやすいでしょう。入玉模様の将棋については、その特徴やルールなど、「イメージと読みの将棋観」の論点にコンピュータの視点を加えてさまざまに論じることができそうですが、今回はすでに長くなりましたので、次回以降のテーマといたします。
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